■演繹と帰納

  • 演繹法(えんえき・ほう)とは、絶対不変の事実や原理から、個別の命題の結論を導く思考方法。原理、真理、公理から入って理屈を付けて結論する。論理的思考法。トップダウン。男性的発想。理屈っぽい。「これこれこうだからこうなる。」という考え方。
  • 帰納法(きのう・ほう)とは、個別の具体的な事柄から一般的な法則を推測する思考方法。状況やデータや経験を積み上げていって結論する。分析的思考法。ボトムアップ。女性的発想。感覚的。「あれもそうだし、これもそうだから、それはこうだ。」という考え方。

「人は必ず死ぬ」
ソクラテスは人である」
「ゆえに、ソクラテスは必ず死ぬ」

「ポチはうれしいと尻尾を振る」
「ハチもうれしいと尻尾を振る」
「パトラッシュもうれしいと尻尾を振る」
「ゆえに、犬はうれしいと尻尾を振る」


★それぞれの欠点
演繹法には前提となる真実が間違っている場合や主観的である場合があり、結論を誤ったり歪めたりすることがある。
「人が死ぬ」という前提が間違ってるとしたら……?


帰納法では、すべての事象を例として網羅しない限り、帰納した結論は確実な真理ではなく、推測に過ぎないことがある。
「すべての犬は尻尾を振る」と言い切れますか?



さて、演繹的発想の人と帰納的発想の人(例えば男女)の意見が対立することはよくあります。
それらは、なぜ起きるのでしょうか?
わかりやすいように、「人が死ぬ」とか「犬がうれしいと尻尾を振る」とかではなく、もう少しビミョーな、意見が分かれやすい問題を例にしてみます。


★命題「○○○屋のラーメンはうまいか」

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木野さん
○○○のラーメンってすごくおいしいよね。【感覚的な感想】


園江木くん
○○○はおいしくないよ。【決め付け】
魚介系のダシがきつすぎて、あっさり醤油スープにあってないし、麺もコシの強い縮れ麺よりストレートの方がいいね。【理屈】


木野さん
でも、雑誌に良く載ってるし、いつも行列してるし、実際食べたらおいしかった(と思う)よ。【確実ではない推測】


園江木くん
君の舌はおかしいね【決め付け】
雑誌の記事なんてほとんど広告だし、行列してるのは一見さんだけでしょ。【理屈で結論】


木野さん
でもネットの評判もいいし、隣で食べてたラヲタっぽい人も完食してたわ。
おいしくなければ完食するはずないでしょ。【理屈はいい】


園江木くん
違うよ。ラヲタは完食することに意義があるから、よっぽどの店じゃなきゃ完食するよ。【だから君の意見は間違い】


木野さん
もういい!


園江木くん
論破完了。ほら見ろ、○○○は不味い。【論理の飛躍】

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ここで命題の真偽は問題ではありません。
ラーメンの味など非常に主観的なものなので、おそらく木野さんは本当に「おいしい」と思っていて、園江木くんは本気で「不味い」と思っているのでしょう。ところが、まあ、ほとんどの人はソクラテスのように天才でも理知的ではないので、勝手な思い込みを普遍的な真理だとしてしまったり、論理に飛躍や破綻が生じているのに、それに気がつかなかったりします。


ここで、もう一度それぞれの欠点を挙げておきます。

演繹法には前提となる真実が間違っている場合や主観的である場合があり、結論を誤ったり歪めたりすることがある。
帰納法では、すべての事象を例として網羅しない限り、帰納した結論は確実な真理ではなく、推測に過ぎないことがある。


上記の例だと、園江木くんの決めつけはどれも普遍的な真理ではありませんし、一方、木野さんの並べたデータや状況は、その論理的基盤が非常に貧弱です。つまり、意見が対立したにも関わらず、双方どちらもが「心の底から納得」できるような説得や反論が出来ていないことに問題があるのです。


決定的なのは、「雑誌に掲載されてる」とか「行列してる」とかという信頼性の薄い意見で木野さんがおいしさを主張しているのに対し、園江木くんは「君は味盲である」という思いっきり主観的な意見を「絶対不変の真理」としてぶつけ、説得を試みていることです。木野さんは「味盲である」という意見などとても受け入れられませんが、園江木くんが納得するような反論を提示することが出来ません。ここに大変なストレスを感じてしまいます。こうなると、話し合いは感情的なものとなり、収拾がつきません。


まあ、園江木くんの性格的な問題はアレですが、ここは(どちらの立場であっても)相手の性格や思考パターンを理解することで、容易に対立を回避できたはずです。もちろん、ほとんどのコミュニケーションでは、みんな自然とそれを行って余計な対立を避けようとします。感情的になる前に、お互いが納得できる意見を出せればよいのですが、それが出来ない場合は、対立を回避するようにこちらが立ち回りましょう。

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しかし、男女間の対立という点から、この会話を見た場合、最も重要なのは、二人の心理的な目的の違いかもしれません。実は、園江木くんが、ラーメンの味を本気で論じようとしていたのに対し、木野さんはただ単に世間話がしたかっただけで、美味いか不味いかなんてどうでも良かったのです。男性と女性で、話がもつれる最大の原因はこれです。女性は話を聞いてほしいだけ、男はうんちくを垂れたいだけ、ということが往々にしてあります。


男性は「こいつ何言ってるかワカンネ」と思っても黙ってうなずきながら話を聞きましょう。
女性は「この人の話つまんない」と思ってもニコニコしながら楽しそうに聞きましょう。


松下幸之助の有名な言葉に「聞き上手であれ」というのがあります。コミュニケーションにおいては「話し上手」より「聞き上手」の方が良い関係をもたらすという話です。至言ですね。(興味のある方は検索してください)


男女間以外にも、上司と部下、理系と文系、企画とデザイナーなど、いつも意見が対立して話し合いにならないという場合は、これと同様のことが起きてる可能性があります。一度、相手の意見を冷静にとらえ直して、相手が何を求めているのかを分析してみてはいかがでしょうか。