レディヘのまとめと音楽ビジネスの未来


先日(つってもだいぶ前)、大学院でJASRACじゃないほうの著作権管理団体の中の人の話を聴く機会があった。
話を聴きながら、「それは違うダロ」「おおそれスゲー」などと自分の中で賛否両論あったのだが、ひとつ気になったトピックがレディオヘッドが新作アルバムを無料でダウンロードさせるという試みをやって大成功したという話。全然知らなかったんだけど、後で色々調べたら、結構有名な話らしくニュースがごろごろ見つかった。そんで、この講演の直後に日本でも同じ取組みを行うというニュースが出た。


まあ、格好つけて斜めから物を言うと日本版は「結構儲かったからもうひと稼ぎ」的な二匹目のドジョウなんだと思うけど、それはさておき、コンテンツビジネス的にはエポックメイキングというか明らかなターニングポイントになる話題だと感じた。どうすごいのかという解説や考察は色んなサイトやブログが書いてるので、私のエントリでは、これをきっかけに間違いなく影響を受けるであろう音楽ビジネスの未来像を考えてみようと思う。


まず、そんなニュース知らネーヨという人のためにまとめ。知ってる人は飛ばしてください。


■ことの起こり
ITmediaNews:レディオヘッド「値段はあなた次第」販売、日本でも

ホステス・エンタテインメントは11月26日、英ロックバンド、レディオヘッド
新作アルバム「IN RAINBOWS」を、ユーザーが購入価格を自由に決められる形で
ダウンロード販売する日本語サイト「www.inrainbows.jp」を12月3日正午にオー
プンすると発表した。


■分析
はてなAnonymousDiary:「これはひどい」ITmediaのレディへ記事が、あまりに印象操作が過ぎる件

さあ、後は単純な算数だ。10/12以降、In Rainbowsがまったく、1枚たりとも、売れなかったとしよう。120万に2.26$を掛けてみればいい。そこからCDプレス代は引かれない。レコード会社の取り分もない。

ジャジャーン。答えは270万ドル!!!

3億510まんえん!!!!! 2日で!!!!!


■論評
NIKKEINET IT+PLUS:レディオヘッドを聴けばわかる音楽業界・ダウンロード違法化論の不誠実

多くの人が気になっているのは「実際にこの試みでバンドがどれだけ潤ったの
か」というところだろう。この件についてレディオヘッドのマネージャーが
Billboard.comのインタビューに答えた話や、調査会社のコムストアが発表した
データを総合すると、有料でダウンロードしたのは30万〜50万人程度。有料で購
入した人の平均購入価格は全世界で6ドル(約660円)前後ということが分かって
いる。これは、バンド側にはおよそ2億〜3億円の収入が入ったということだ。


■議論
池田信夫blog:レディオヘッドの実験
コメント欄が面白い。この音楽の拡がりが想定された流通を超えて広がっている事実がよくわかります。


■その後
eiga.com:レディオヘッド、新作ダウンロード専用サイトが日本でもオープン



引用まとめ終わり。


さて、音楽ビジネスはどうなってしまうの?
個人的な見解ですが、今後はこれがブレイクスルーになって、録音音楽は無料か極めて安価に手に入れられるようにした上で、いかにコストを低くファンのすそ野をどれだけ広げるかに重点がおかれ、アーティスト自身はライブか、即時性に価値を求められるようなテレビ番組等への出演、あるいはグッズのようなリアルに価値のあるもので儲けるという風に移行していくだろうと考えております。CDは趣味性の高い高価な物(豪華ジャケとか特典満載の)になるでしょうね。
レコードをリリースしたら寝てても金が入ってくるという時代は終わり、トップアーティストでもライブハウスクラスの公演を1ツアー全国で数十公演くらいやらなければならないという厳しい(と考えるかどうかはアーティスト次第だが)時代に入ると思います。


この辺りの知見は光文社ペーパーバックスの「コンテンツ消滅 音楽・ゲーム・アニメ ペーパーバックス」を読んでてたどり着いたんだけど、実は、このような議論はエンターテイメント業界で割と何度も繰り返されてきた話だったりするんですね。


例えば、アメリカの映画産業が、50年代にテレビが普及して大打撃をこうむった時、映画業界はカラーと大画面という優位性を前面に打ち出した作品作りに特化し、劇場のライブ感を高めることでテレビと差別化を行いつつ、逆にテレビを徹底的に映画の宣伝に利用しながら、さらにはテレビに映画放映権を売りつけるというビジネスモデルを編み出し、復活を遂げました。その流れは、80年代のブロックバスター主義へとつながり、90年代後半の「タイタニック」で頂点に達したわけです。現在、映画業界は明らかに下り坂(あるいはバブル)ですが、それはさておき、今でも、新作公開前に地上波テレビで過去作の放映を必ずやりますね。タダでアテンションを惹いたほうがライブの価値が高まるわけです。無限にコピーできるデジタル音楽に対してライブ空間というのは物理的制約があり、希少性が生まれますから、より多くの人をライブに参加したいと思わせたほうが価値が高まるわけです。情報経済下のビジネスでは、いかに希少性を発揮するかが最も重要なポイントです。


閑話休題


Radioheadのやり方が、彼らほど人気が高くないアーティストたちの間で広く根付くかどうかは疑わしい」というような論調もあるようですが、私は逆に、レディヘのようなビッグアーティストによって音楽配信のためのインフラとシステムが整えられれば、新人やインディーズにも道が開けて行くだろうと思います。


というわけで、音楽業界もライブを頂点に置いたウィンドウ戦略の展開が今後、重要になると思われます。なんせ、今後“音楽販売”では儲からないんだから。
ちなみに、今回の実験で、たまたまレディオヘッドが儲けたのは最初の一発だけの特例でしょう。「なんだよ、タダでダウンロードしたやつ、そんなにいるのかよ! 今後は1セントたりとも払うか!」という人間が増えるのは確実で、そこから金を引き出すためにはダウンロード費用をドネーションに、コンサートの売上は1%でもチャリティー、みたいな感性に訴える戦略を行うか、別の収益源を探すのがビジネスとしては健全だと思います。


こんなところで。